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 【週刊・読書北海道メール版】 復刊第65号(通巻196号)  2000/04/18発行
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=====【今週の目次】=========================================================
〔Colum:本と批評〕
1)月刊漫画時評11(阿部 幸弘)
                 卯月妙子『実録企画モノ』(太田出版、952円)
〔News:本の情報〕
2)新聞書評インデックス−2000年4月9日、4月16日掲載分
3)今週のベストセラー−札幌市中央区編
〔Colum:北海道の本と文化〕
4)北海道自然・環境ウオッチング11(島田 明英)
              東三郎著『森づくりの技と心』(ギミック、2000円)
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〔Colum:本と批評〕
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●月刊漫画時評11(阿部 幸弘)   性急で緊迫したヴィヴィッドな生き方を描く

                 卯月妙子『実録企画モノ』(太田出版、952円)
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 ◆実録物語は意外な方向に展開◆

 このマンガの作者は、某有名企画モノAVに数多く出演している卯月妙子氏。タイ
トルの“企画モノ”とは、イロモノ、キワモノなどとイメージがつながる言葉のよう
で、ただセックスしているところを見せるAVではなく、スカトロだのゲロだの、多
くの人々が生理的に避けるあたりを、あえて狙ったジャンルということになるだろう
か。マニア向け、という言い方もある。世の中には様々な嗜好があるので、このよう
な企画も商売として成り立つわけだ。(すでにこの世界に詳しい方には、まだるっこ
しい説明だろうがお許し下さい。ついでに、誤りがあったらどうぞご指摘ください。)
 さて、このマンガの売りとして、そのような、AV界の中でも更に特殊なお仕事を
されているお姉さんが、一体どのような人なのかという、一種の覗き趣味が読者の側
にあるのは間違いないだろう。編集部も作者も、その辺りの事情はすでに計算済み、
折り込み済みといったところか。ところがこの作品は、それだけに終わらない強いイ
ンパクトを持っている。最も読み手を感動させる部分は、実は業界打ち明け話の部分
ではなく、作者とその夫の、度胆を抜くような“特殊な”生き様の方にあった。読み
すすみながら筆者は、自分を含めてそこらの人間が、いかに自身に枠を嵌めて生きて
いるのかを思い知らされた気がした。だからと言って、簡単に見習えるようなことで
は全然ないし、あまり見習いたいともいいにくいのだが、いずれにしても読後感は、
まさにハンマーで頭を殴られた感じだった。平たく言ってそれは、やっぱり感動なの
だ。以下、そのことを説明しよう。
 マンガの中身は看板に偽りなく、AV女優としての仕事を代表に、業界で幅広く稼
ぎまくる作者の日常を描いたものだ。だが、そのテンションとスピード感、なおかつ
その上を行く逞しさが物凄い。もちろん、それぞれのエピソードも面白いのだが、業
界話というものはある程度聞いていくと、その世界が決して非日常ではないことが分
かってくるものだ。だから、それだけではこのめくるめくような一種の“ハイ状態”
は維持できまい。では、一体何が彼女にこれだけハイテンションな生き方を維持させ
得るのか? あるいは、何が作品に、このような高いテンションを持ち込んでいるの
か? そんな疑問を持ちながら読みすすむうちに、この実録物語は意外な方向に展開
していく。

 ◆AV女優活動の一つの源泉◆

 彼女には、夫と息子が居る。ご飯を作ったり子供の世話をしたりという部分では、
作者はまことに普通の日常生活を維持している。卯月氏の一方の顔が、貧乏で地味な
家庭の主婦というのは、まぎれもない事実だ。そう読むとこのマンガは、AV業界の
実録モノであると同時に、あるなんでもない核家族の実録という側面を持っていて、
その両方が絡み合って展開していく。エピソードは必ずしも時系列に沿って並んでは
いないが、読み通すと大体、次のような流れが分かってくる。作者は、美術学生時代
に夫と出会う。夫自身は様々な(おそらく美術イベント系の)企画を立てては、運悪
く(?)破綻して借金を繰り返すという生活ぶりで、作者が特殊AV等でそれなりの
金額を稼いでも、一家はいつまでたっても貧乏生活から抜け出せないという状況が続
いている。
 ただし、金銭感覚の欠如した身勝手な夫と、借金の重圧にむせび泣く殊勝な妻とい
うような、図式的な構造ではない。妻である作者自身も、必ずしも嫌々AV業界で働
いているわけではない。いやむしろ、天職のように自在に泳ぎ回っているとも、日々
の生活のために逞しく勢いに乗って稼いでいるともいえる状況だ。そもそも田舎の高
校生時代から、ハードな描写のやおいマンガにはまってしまった彼女は、周囲に同士
の居ない孤独な変態生活を一人寂しく過ごしていたそうな。しかし東京に来てからは、
縁あって、エロ本業界ついでAV業界に出会い、喜びとともに目からウロコが落ち、
一切NG(あれしちゃダメ、これしちゃダメという条件)のないAV女優として活躍
しはじめたというわけだ。
 だが、たとえ彼女の仕事が自分の趣味と実益を満たす前向きなものだったとしても、
夫のために体を張っているのも事実であり、その部分だけに注目すると、彼女の行動
はある意味でほとんど古風な嫁のそれである。いずれにせよ彼女は、夫に可能な限り
やりたいことをやらせたいと考えていたわけだ。
 ところで、アーチストである夫は、何か長くは生きられない持病を抱えているらし
く、そのためもあって、アートとしての自殺をかねてから企画していた。もちろんこ
のことは作者も、ずいぶん昔から十分承知の上だ。そして、諸般の事情すべて夫婦の
双方で納得づくで、ある日夫は本当に投身自殺を実行する。もちろん、家族にそれを
宣言し、前の晩に長編傑作遺書を脱稿してからという、かなりの確信犯ぶりだ(ん?
犯罪ではないな)。だから彼の自殺は、「悩んだ末に」ではないし、もちろん「うつ
病になった」からでもない。自ら選んだ一つの生き方として死ぬ。そういう自殺も確
かにあり得る。そして、この<近い将来に予定されたパフォーマンスとしての夫の死
>が、AV女優・卯月妙子の極めてハイテンションな活動の、一つの源泉だったとい
うわけだ。何という一発勝負人生!何とユニークな夫婦の支え合いであることか?!

 ◆家族とは何か改めて問い直す側面◆

 こうして、彼女を母役とした核家族は、幼い息子と二人の母子家庭となってしまう。
だが、ある側面から言えば、一生忘れられない刻印を、家族が互いに刻み合い、父・
母・子としてこれ以上ない強い絆を結び、スピリチュアルな核家族(つまり家族愛?)
を完成したと見ることもできる。もちろんこんなのは、ひとつの解釈であり、言葉の
遊びにすぎないが。(ここまで書いていて思うが、「実録企画モノ」には、ただただ
事実がフツーに、時には読者サービスで面白おかしく味付けされることはあっても、
淡々と描かれているだけで、作者が何か意味付けをしようという意図はさらさら見え
ない。しかし作品を解説するために筆者があえて言葉にすればするほど、余計な解釈
が入り込んで、もうとんでもなくヤボになってしまう。こうして書きながら、評論と
いうもののヤボさ加減を改めてを自覚せざるを得ない。ま、当面仕方ない。)
 結局このマンガの魅力は、「どこまでホントかどうか知らないが、こんな風に生き
たらしい一組の核家族がいる」という強烈な事実だ。知らなければ済んだものを、読
むことで出会ってしまい、そして絶句させられてしまう存在の強度だ。繰り返すが、
その強度は、業界話の部分よりも、性急で緊迫しまくった作者らのヴィヴィッドな生
き方にある。
 ここで再度、家族という視点から見れば、主人公の家庭は、とーさん、かーさん(
作者)、息子という、どこまでも当たり前の家族構成で、かーさんは火の車の家計を
なんとかやりくりしながら暮らしているという、そこだけ見れば懐かしくも尋常な、
ノーマル以上にノーマルな生活があるということだ。破天荒な生き方とこの生活感と
の激しいギャップは一体何だろう。頭が気持ちよく混乱する。
 最後にマンガの側面から少し触れて稿を終えよう。もともとマンガの同人誌活動を
やっていただけあって、卯月妙子のマンガは決して下手くそではない。コマ割りは自
在で話の展開もこなれている。ただ、まるで綺麗に描こうとせず、かなりいいかげん
な線で適当に描いているので、絵が上手いというのとは少し違う。にもかかわらず、
表情の描写力にはスゴイものがある。プロ的な上手さは狙っていないものの、特に、
驚きや焦りで破壊された顔面の描写は、あまりにも迫力があり、ところどころで今ま
でのマンガの水準を越えている時さえある。
 とんでもない企画モノマンガでありながら、(マジに言うと笑われるのを承知で書
くが)家族というものが何なのかを、改めて問い直す側面も持っている。スゴイ作品
である。

☆筆者の阿部幸弘(あべ ゆきひろ)氏はマンガ評論家、精神科医。現在、『鳩よ!』
にコラムを連載しているほか『ガロ』『ユリイカ』『週刊読書人』『北海道新聞』な
ど多くの雑誌、新聞にマンガ評論を執筆している。

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〔News:本の情報〕
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▼新聞書評インデックス(2000年4月9日掲載分)
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○北海道新聞○
栗原彬編『証言 水俣病』(岩波新書)−評者・鎌田慧
大崎善生著『聖の青春』(講談社)−評者・団鬼六
葛西聖司著『名セリフの力』(展望社)−評者・秋山勝彦
山口昌男著『敗者学のすすめ』(平凡社)−評者・鈴木正崇
柳美里著『男』(メディアファクトリー)−評者・中沢けい

○朝日新聞○
■照彦著(トウ ツァウエン)著『台湾の選択』(平凡社新書)−評者・大田弘子
小室明著『スーツホームレス』(海拓舎)−評者・斎藤美奈子
小沢信男著『裸の大将一代記 山下清の見た夢』(筑摩書房)−評者・池内紀
村上龍著『共生虫』(講談社)−評者・清水良典
南雲智著『中国「戯れ歌」ウォッチング』(論創社)−評者・井波律子
大石静著『愛才』(文芸春秋社)−評者・扇田昭彦

○日本経済新聞○
ジェーン・グドール、フィリップ・バーマン著『森の旅人』(角川書店)−評者・佐
倉統
岩井克人著『二十一世紀の資本主義論』(筑摩書房)−評者・香西泰
磯崎新著『ル・コルビュジエとはだれか』(王国社)−評者・飯島洋一
シドニー・W・ミンツ著『〔聞書〕アフリカン・アメリカン文化の誕生』(岩波新書)
−評者・落合一泰
金野美奈子著『OLの創造』(勁草書房)−評者・鹿島敬

○毎日新聞○
立花隆著『脳を鍛える』1(新潮社)−評者・海部宣男
金石範著『海の底から、地の底から』(講談社)−評者・高井有一
エステルハージ・ペーテル著『黄金のブタペスト』(未知谷)/オタ・パヴェル著
『美しい鹿の死』(紀伊國屋書店)−評者・沼野充義
猪木正道著『私の二十世紀 猪木正道回顧録』(世界思想社)−評者・五百旗頭真
藤森照信著『タンポポの綿毛』(朝日新聞社)−評者・丸谷才一
エドマンド・ホワイト著『燃える図書館』(河出書房新社)−評者・富山太佳夫

○読売新聞○
町田康著『耳そぎ饅頭』(マガジンハウス)−評者・野矢茂樹
大澤真幸著『「不気味なもの」の政治学』(新書館)−評者・広岡守穂
青木彰著『新聞との約束』(NHK出版)−評者・猪木武徳
岩尾龍太郎著『ロビンソン変形譚小史』(みすず書房)−評者・川村二郎
ウィリアム・モリス著『世界のはての泉』(晶文社)−評者・城戸朱理
柴田鉄治著『科学事件』(岩波新書)−評者・馬場錬成

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▼新聞書評インデックス(2000年4月16日掲載分)
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○北海道新聞○
田村紀雄著『川俣事件』(社会評論社)−評者・花崎皋平
新関公子著『セザンヌとゾラ』(ブリュッケ)−評者・笠井誠一
村上春樹著『神の子どもたちはみな踊る』(新潮社)−評者・横尾和博
水木楊著『砂城』(ダイヤモンド社)−評者・中嶋博行
岩井克人著『二十一世紀の資本主義論』(筑摩書房)−評者・高橋洋児

○朝日新聞○
竹西寛子著『文学私記』(青土社)−評者・久世光彦
ピーター・レイビー著『大探検時代の博物学者たち』(河出書房新社)−評者・長谷
川眞理子
内橋克人著『同時代の読み方』(岩波書店)−評者・中川謙
岡田哲著『とんかつの誕生』(講談社選書メチエ)−評者・中野翠
バリー・ユアグロー著『セックスの哀しみ』(白水社)−評者・松山巖
柳田邦男著『脳治療革命の朝』(文藝春秋)−評者・河谷史夫

○日本経済新聞○
ジャイルズ・ミルトン著『コロンブスをペテンにかけた男』(中央公論新社)−評者
・高山宏
カーラ・スウィッシャー著『AOL』(早川書房)−評者・猪瀬直樹
オタ・パヴェル著『美しい鹿の死』(紀伊國屋書店)−評者・石川達夫
井波律子著『中国文章家列伝』(岩波新書)−評者・武田雅哉
竹内靖雄著『国家という迷信』(日本経済新聞社)−評者・島田晴雄

○毎日新聞○
江南先生訓訳『六朝詩選俗訓』(平凡社東洋文庫)−評者・向井敏
東大作著『我々はなぜ戦争をしたのか』(岩波書店)−評者・池澤夏樹
橋本治著『ああでもなくこうでもなく』(マドラ出版)−評者・大岡玲
中野香織著『スーツの神話』(文春新書)−評者・鹿島茂
佐藤雅彦ほか著『経済ってそういうことだったのか会議』(日本経済新聞社)−評者
・島森路子
韓瑞穂著『異境ー私が生き抜いた中国』(新潮社)−評者・森谷正規

○読売新聞○
谷口研語著『犬の日本史』(PHP新書)−評者・山本博文
ハーバート・ヘンディン著『操られる死』(時事通信社)/チャールズ・F・マッカ
ーン著『医師はなぜ安楽死に手を貸すのか』(中央書院)−評者・養老孟司
井伊直行著『服部さんの幸福な日』(新潮社)−評者・高橋源一郎
米本和広著『教祖逮捕』(宝島社)−評者・井田真木子
白石一文著『一瞬の光』(角川書店)−評者・関川夏央

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▼今週のベストセラー      ◇リーブルなにわ(2000年4月9日〜15日)調べ◇
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1 篠田真由美著『仮面の島』(講談社)900円
2 西村京太郎著『四国情死行』(講談社)790円
3 天童荒太著『永遠の仔』上(幻冬舎)1800円
4 大平光代著『だから、あなたも生きぬいて』(講談社)1400円
5 遙洋子著『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(筑摩書房)1400円
6 平岩弓枝著『横浜慕情 御宿かわせみ』(文藝春秋)1095円
7 天童荒太著『永遠の仔』下(幻冬舎)1900円
8 講談社インターナショナル編『これを英語で言えますか?』(講談社インターナシ
 ョナル)1200円
9 殊能将之著『美濃牛』(講談社)1300円
10 山藍紫姫子著『堕天使の島』(角川書店)1400円
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〔Colum:北海道の本と文化〕
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★北海道自然・環境ウオッチング11(島田明英) 木を植えるだけでは森にならない。

              東三郎著『森づくりの技と心』(ギミック、2000円)
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 ◆時代に歓迎される技術◆

 森の必要性は様々な形で語られる。しかし森は失われてゆく一方である。では、新
たに森−植生を作るにはどうしたらよいかというのが、本書で語られていることであ
る。
 本書は表紙に「1975年『環境林を作る』全文復刻を含む」とあるように、同じ著者
が以前出版した本の復刻を含んでいる。というより、「環境林を作る」の前と後ろに
若干のコメントを加えたものといった方がよいだろう。このような形での再出版には
疑問も残る。ただ好意的に考えれば、著者の仕事は結果を見るまでに膨大な時間がか
かる性質のものだ。旧著で展開した自論に、現時点での検証を加えてみたいという意
図は分かる。
 さて、復刻された「環境林を作る」を元に、著者の仕事を見てみよう。
 著者は北大農学部の砂防工学講座の教授を長く務めた人で、専門は砂防工学という
ことになる。その中でも本書で扱われているのは植生の回復・復元という事柄である。
 現在、有珠山噴火のニュースが毎日流れ、火山灰のつもった様子や泥流の発生が報
じられている。今後噴火が治まった後、始められることのひとつが山の緑化というこ
とであろう。火山灰が積もったままになっていては大雨などでいつ泥流が発生するか
もしれない。砂漠のようになった土地をはやく緑で覆って土地を安定させる必要があ
る。本書では昭和新山生成後の事例を引いて噴火後の植生回復を論じている。
 本書はこのような植生回復の技術を論じたものである。一般向きにわかりやすい言
葉で書かれているが、通読するのはやや苦痛かもしれない。しかし、興味を引いたと
ころだけを読んでいても、「大地は放っておいても緑にはならない。ただ木を植えて
も森にはならない」ということは十分に分かる。
 著者の大きな業績に、前生林の造成法を確立したことがある。森の失われたところ、
森のできにくいところにどうやって森を作っていくかという第一歩の部分である。
 著者はまず、ヤナギに注目した。挿し木ができ、乾燥に強く、はやく樹林ができる
種類である。ついで、フェンスの防風効果に着目した。さらに苗のまわりの土を覆う
マルチという方法によって他の植物との競争から苗を守り、ポット式の育苗法を開発
した。強い苗を手軽に植えることができるようになったのである。古紙利用の「カミ
ネッコン」と命名された育苗ポットなど、まさに時代に歓迎されるものであろう。
 このような著者の開発した技術は現場でも盛んに使われている。石狩川の堤防にで
も行けばすぐ見ることができる。
 荒廃地に森を作るという技術は著者らによって進歩した。しかしそれはまだ限られ
た技術である。森はその土地の事情−地形・地質、気候、地表変動の歴史等によって
膨大な時間をかけて作り上げられてきたものである。そのような土地土地で固有の、
成熟した森林を作ることができないのは著者も本書中でふれているように明らかだ。
つまり、機能として治山治水のための林を作ったり、いわゆる緑の空間を作ることは
できるが、それは植生の回復であっても、即自然の回復ではないということだ。

 ◆植生の回復と自然の回復◆

 しかし、そのような限界を十分に認識せず、「森は作れるものだ」と考える、もし
くはあえてそう思いこみたがる人たちがいる。
 著者が本書で例示しているのは恵庭岳滑降コースの森林復元についてである。札幌
冬季オリンピックのスキー滑降コースは、オリンピック終了後直ちに森林を復元する
ことを条件に、恵庭岳山腹に設置された。はじめから明らかだったことではあるが、
それは復元というようなものではなく、あくまで治山工事−山が崩れないように草や
木を生やす程度のものだったのである。しかし一般の受け取り方としては「元に戻る
ならいいだろう」というものであったろうし、滑降コースを造った側もそういう方向
へ誘導したのかもしれない。
 本書から離れるが、自然の復元ということで一時話題になったものに「カワセミ護
岸」というものがある。コンクリートで川を固めてしまえば、川岸の土に穴を掘って
巣とするカワセミは住めなくなる。そこで、コンクリートブロックにカワセミの巣と
同じサイズの穴をあけて護岸に使ったところカワセミが巣を作ったというものだ。し
かしこのような巣が何回も使われるとは考えられないし、まずコンクリートで固めて
はカワセミのエサとなる魚もいなくなるだろう。
 植生の復元ということはもちろん重要な技術であり、特に最近注目されることが多
い。河川では「近自然工法」などと呼ばれる技術がもてはやされている。しかし、こ
れらのいわゆる「自然にやさしい」工法や技術は残念ながらまだ非常に限定的なもの
だと考えるべきだ。それは手近な川へ行って「親水護岸」とうたわれた工事がどんな
ものかを見ればすぐ理解できる。これらの言葉が使われるとき、その内容がどのよう
なものなのかよく吟味する必要がある。「自然にやさしい」という言葉は、自然に優
しくない人たちがよく使うからだ。

☆筆者の島田明英(しまだ・あきひで)氏は、札幌の自然ウオッチングセンター代表。

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