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【週刊・読書北海道メール版】 復刊第58号(通巻189号) 2000/02/22発行
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=====【今週の目次】=========================================================
〔Colum:本と批評〕
1)月刊漫画時評10(阿部 幸弘)
木尾士目『五年生』(講談社、現在3巻、各505円)
〔News:本の情報〕
2)新聞書評インデックス−2000年2月20日掲載分
3)今週のベストセラー−札幌市西区編
〔Colum:北海道の本と文化〕
4)北海道出版史稿 昭和・戦前篇10(出村 文理) 戦前の出版事情総括
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〔Colum:本と批評〕
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●月刊漫画時評10(阿部 幸弘) モラトリアムの構造は恋愛関係に似ている
木尾士目『五年生』(講談社、現在3巻、各505円)
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◆恋の駆け引きというゲーム◆
今回は、コミック・アフタヌーン連載の木尾士目(きお・しもく)『五年生』(講
談社)について書こうと思う。
タイトルは、大学の五年生、つまり留年生のことを意味している。主人公の島明夫
(しま・あきお)は、卒業間際、ぎりぎりのアウトで留年する。そもそもこうなった
のは、やる気のない大学生活に輪をかけて、全く就職活動に積極的になれず、ずるず
ると周囲から遅れをとってしまったことに原因がある。それでも遅ればせながら本腰
を入れて会社面接を受け、なんとか就職が決まったのもつかの間、最後の土壇場で単
位が足りないのが分かったというのだから、超の付くボンクラ野郎だ。ま、よく居る
けれども。
ところで、物語の本筋は就職のことではない。同じ大学(法学部)のゼミで出会い
つきあいはじめた、明夫とその彼女、相馬芳乃(そうま・よしの)との煮えきらない
ウダウダした恋愛が話の主題だ。芳乃の方は、全く正反対のタイプだ。将来弁護士に
なることを目指して、在学中からテキパキ勉強し、法律事務所でのアルバイトも経験
し、ゼミも積極的にこなす。言わば学生の鏡だ。ただ、優等生というよりは、ちゃん
と自分の未来に投資している、しっかりした女性と言うべきだろう。実際、彼女の生
活は決して勉強ばかりでなく、それなりに友達付合いも男女関係もある。
さて、未来に対する姿勢がこれだけ対照的な男女なら、その恋愛が非常に不安定な
のは最初から予想が付く。これからの生活も、(二人で生きていくという意味では)
一寸先も見えない。しかも、芳乃が就職して東京に出てからは、遠距離恋愛の困難さ
も加わって、二人の関係ははっきり言ってピンチである。それでも明夫は、恋愛につ
いてもあまりやる気を見せない。相変わらず生活全般がウダウダしているのだ。
こんな二人を繋ぐものは何だろうか? 端的にセックスと、あとせいぜい「一緒に
居たい」と思う気持ちぐらいのものではないだろうか。しかし、その気持ちこそが正
に危うい状況だとしたら、それでもなお芳乃があえて明夫にこだわり続ける要素は何
か? 最後に残るのは、恋の駆け引きというゲーム(つまり自分らで半ば意識的に仕
組んだフィクション)で味わうスリルしかない。実際、本作の3巻目で芳乃は、わざ
と明夫の嫉妬心を煽るようなゲームを、自ら仕掛けているように見える。(そして、
明夫が本気を出すことはたまーにはある。ただそれが一瞬だけで、しかもやり方が非
常にオバカなので――芳乃と並んで歩いていた男(職場の上司)を卑怯にも後ろから
蹴ったり…あーあ…――正に“最低男”のレベルアップ記録更新中である。)
というわけで、本作は男女の恋愛物語には違いないが、少しもロマンチックではな
く、ましてや情熱的でもない。物語の性質上、展開は非常に平坦でだらだらしており、
あまりエンタテインメント性が強いとは言えない。それなのに、つい読んでしまうか
ら不思議だ。多分、いくつかの問題意識を読者と共有できているからだろう。たとえ
ば、社会が我々に押しつけてくる性役割の問題、あるいは、一対の男女が組み合わせ
となる恋愛というルールのこと(これも穿って考えれば社会が押しつけてくる制度だ)
などなど。
◆ペンが作者の意識を越えて◆
モラトリアムと名付けられた現象は、今、広く日本に行き渡っている。社会に出ず
家の中で過ごす青年は、十年選手、二十年選手もザラではなくなり、主人公・明夫の
たった一年のモラトリアムなど、かなり可愛い部類だ。だが、就職と恋愛が交差する
絶妙な舞台設定によって、一見ありふれた男女関係の中に、我々の社会が抱える問題
が複雑微妙に見え隠れする。二人の他愛無い会話の中に、我々自身の不安がちらつく。
それがこの作品の魅力だろう。
さて、前記の社会問題に対して、この評論文がケリを付けるなどということはもち
ろんできないが、マンガ評の視点から気になることを一つ上げておきたい。それは、
木尾の描く人物の形のことだ。
まず、男も女も基本的に細面で、ラグビーボールのように顎が尖り気味だ。そして
躯幹も、できるだけヒョロッとした感じに描いてあり、全体として、体の芯に力がな
い。そして、これまた男女差があまりない。それなりにマンガ作品としてリアリティ
のある描写だと思うし、テーマに非常にふさわしい体だとも言える。
だからなのか、情事の後の二人の会話場面を見ても、一糸まとわぬ男女の姿が延々
と描かれているにもかかわらず、少しもセクシーに感じない。作者はおそらく、ポル
ノグラフィックな視線を、意識的に排除して描いている。それはなんとなく伝わって
くる。
ここで、女性のヌード(ただし首の下から、臍下あたりまで)を扉絵に描いたペー
ジがある(3巻目、67ページ)。やはりこの絵も、性的なものをほとんど喚起しない。
それはそれでいい。問題は、平らな物語をぼんやりなにげなく読んでいた私が、この
絵に出会って、瞬間、ギョッとしてしまったことだ。ヒョロリとした細身で力の抜け
た体。小さめの乳房や肋骨の陰影が描かれているシンプルな扉絵。決してそれ以上の
表現衝動が込められた絵ではない。それなのに、その躯幹の絵は、まるで工場に吊さ
れた解体済みの冷凍肉のように私には見えたのだ。あるいは、解剖されるのを待つ死
体のようでもある。弁護するが、作者は決して露悪的な描写を目指しているわけでは
ない。にもかかわらず、ペンが作者の意識を越えて、ある本質をつかんでしまったの
だと思う。この場合その本質とは、性的でない体を描くというベクトルを知らず知ら
ずのうちに延ばしたその先には、生気のない、死に、乾き、凍り、吊された体があっ
たということだ。
そして、もう一つ印象的なコマがある。126ページ1コマ目 ――明夫がやる気なく
ベッドで寝ているところを、彼の頭頂近くから足元の方向に見下ろすように描いたコ
マだ。この明夫も、まるで目を開けた死体のようなのだ。
何の根拠もなく直感的に言ってしまえば、制度によってがんじがらめにされ、生き
生きと生きられなくなった我々の現実を、日常のスケッチを重ね丁寧に描いていくこ
とで、作者の意識とは別なところで、これらの死体のような描写が必然的に生まれて
きたのでないかと思う。そのような強いインパクトのあるコマは、1、2巻目には無
かったように思うので、この3巻目に入って、それだけ木尾の作家としての進歩があ
るということだ。
◆社会との長い長い愛憎関係◆
ここで私は考え込んでしまった。つまり、モラトリアムも、ゲームとしての恋愛も、
制度の圧力で魂が死にかけている我々にとって、実はぎりぎり必要な生気や水分を補
給する装置だということなのか? そういう疑問が湧いてきた。たしかに、悩むとい
うことは、生きている実感の一つには違いない。私自身、モラトリアム的な生き方を
している人間だが、このごろ漠然とそんな気がしてきてはいた。人生の様々な逆境に
比べればどちらも、ある意味たいした苦悩ではないだろう、だが…。モラトリアムも
ゲームとしての恋愛も、本人には苦しいことは苦しいはずだ。それは決して嘘という
ことにはならない。しかし同時に、ある種の甘美な手ごたえが、微量に含まれていな
いとも言い切れない。
けれども、このことに気が付いても人は、それでモラトリアムを脱却するというも
のでもないだろう。いやむしろ、より確信犯的にゲームを続けることになると思う。
つまり、逆説的な落ちになるが、恋愛の苦悩も、モラトリアムの苦悩も、生きている
からこその幸せということになる。
ここで、“社会”と呼ばれるものを擬人化して、一人の人間に見立てれば、モラト
リアムの構造は、はあたかも恋愛関係に似てくる。「男」と「女」という項に、「引
きこもりの青年」と「一般社会」という変数を代入すればよい。社会に認められ愛さ
れることを狂おしく求めるあまり、青年は悩み屈折し葛藤する。“社会”さんとの長
い長い愛憎関係は、それが一方的であればあるほど、相手を意識し過ぎるが故の不毛
な恋愛に近づいてくる。そのような恋愛を突き詰めるのは意味がない。むしろゲーム
として恋愛する方が、実り豊かに違いないのだ。
☆筆者の阿部幸弘(あべ ゆきひろ)氏はマンガ評論家、精神科医。現在、『鳩よ!』
にコラムを連載しているほか『ガロ』『ユリイカ』『週刊読書人』『北海道新聞』な
ど多くの雑誌、新聞にマンガ評論を執筆している。
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〔News:本の情報〕
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▼新聞書評インデックス(2000年2月20日掲載分)
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○北海道新聞○
宇江佐真理著『おちゃっぴい』(徳間書店)−評者・見延典子
清川虹子著『みんな死んじゃった』(双葉社)−評者・矢野誠一
クローディーヌ・セール著『晩年のボーヴォワール』(藤原書店)−評者・佐藤亜有
子
井上順孝著『若者と現代宗教』(ちくま新書)−評者・吉田司
ジェームズ・マン著『米中奔流』(共同通信社)−評者・劉傑
○朝日新聞○
藤野千夜著『夏の約束』(講談社)−評者・清水良典
朝日新聞特別取材班著『政治家よ』(朝日新聞社)−評者・大嶽秀夫
柄谷行人編著『可能なるコミュニズム』(太田出版)−評者・奥泉光
ポール・オースター著『リヴァイアサン』(新潮社)−評者・井波律子
アンドレイ・マキーヌ著『フランスの遺言書』(水声社)−評者・松山巌
中井久夫著『西欧精神医学背景史』(みすず書房)−評者・西垣通
○日本経済新聞○
W・スターリングほか著『団塊世代の経済学』(日経BP社)−評者・斎藤精一郎
門脇厚司著『子どもの社会力』(岩波新書)−評者・柴崎信三
レイチェル・カーソン著『失われた森』(集英社)−評者・吉岡忍
ジョン・G・モリス著『20世紀の瞬間』(光文社)−評者・飯沢耕太郎
吉村昭著『夜明けの雷鳴』(文藝春秋)−評者・野口武彦
○毎日新聞○
山崎正和著『歴史の真実と政治の正義』(中央公論新社)−評者・丸谷才一
野溝七生子著『山梔』(講談社文芸文庫)−評者・川本三郎
平尾誠二著『「知」のスピードが壁を破る』(PHP研究所)/同ほか著『イメージ
とマネージ』(集英社文庫)−評者・森谷正規
上村幸治著『中国 権力核心』(文藝春秋)−評者・張競
吉田直哉著『まなこつむれば…』(筑摩書房)−評者・島森路子
鹿島茂著『職業別 パリ風俗』(白水社)−評者・向井敏
○読売新聞○
四方田犬彦著『日本映画のラディカルな意志』(岩波書店)−評者・城戸朱理
浜名優美著『ブローデル「地中海」入門』(藤原書店)/I・ウォーラーステインほ
か著『「地中海」を読む』(同)−評者・竹田いさみ
ヴィリー・シュー編『リヒャルト・シュトラウス ホーフマンスタール 往復書簡全
集』(音楽之友社)−評者・川村二郎
アラン・マクファーレン著『再生産の歴史人類学』(勁草書房)−評者・猪木武徳
フェデリコ・ゼーリ著『イメージの裏側』(八坂書房)−評者・木下直之
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▼今週のベストセラー ◇札幌・くすみ書房(2000年 2月12日〜18日)調べ◇
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1 ドロシー・ロー・ノルトほか著『子どもが育つ魔法の言葉』(PHP研究所)150
0円
2 松尾つよし著『幸せをもうひとつ』(北海道新聞社)1400円
3 大原照子著『少ないモノでゆたかに暮らす』(大和書房)1400円
4 J・K・ローリング著『ハリーポッターと賢者の石』(静山社)1900円
5 先天性四肢障害児父母の会編著『これが僕らの五体満足』(三省堂)1400円
6 島田雅彦ほか著『中学生の教科書』(四谷ラウンド)1200円
7 五木寛之著『人生の目的』(幻冬舎)1429円
8 近藤誠著『本音で語る!よくない治療ダメな医者』(三天書房)1600円
9 幕内秀夫著『粗食のすすめ 冬のレシピ』(東洋経済新報社)1200円
10 浜尾実著『美智子さま心にひびく愛の言葉』(青春出版社)1400円
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〔Colum:北海道の本と文化〕
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★北海道出版史稿 昭和・戦前篇10(出村 文理) 戦前の出版事情総括
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◇戦前刊行の書籍の特色◇
これまで、昭和2年から終戦の昭和20年までの北海道における商業出版を中心に
出版事情の概要を、下記の9回にわたり記してきた。
第1回 北海道出版の明治から昭和まで 復刊第3号・通巻134号 1998/12/15
第2回 北海道農業関係書の淳文書院 復刊第8号・通巻139号 1999/2/2
第3回 東京に進出した北海出版社 復刊第13号・通巻144号 1999/3/9
第4回 古書店・尚古堂と北方出版社 復刊第19号・通巻150号 1999/4/20
第5回 北海教育評論社と石附忠平 復刊第26号・通巻157号 1999/6/15
第6回 地崎宇三郎と北方文化出版社 復刊第33号・通巻164号 1999/8/3
第7回 戦前の郷土書・アイヌ関係書 復刊第39号・通巻170号 1999/9/21
第8回 戦前の北海道関係雑誌類 復刊第46号・通巻177号 1999/11/9
第9回 メディア統制・書店・印刷所 復刊第50号・通巻181号 1999/12/7
これらを総括すれば商業出版の書籍(単行本)については、概ね実利的若しくは実
用的なものであった。すなわち、北海道農業及び北海道の小学校の教科教育書副読本
の農業関係書・教育関係書の刊行が主体であり、農業関係書は青年学校や一般農家向
け、教育関係書は小学生・教員向けのものであった。農業関係書と教育関係書は、青
年学校生等と小学校生に販売することによって一定数の発行部数を確保することが可
能であった。農業書は、北海道が食糧供給基地として農業技術書を中心に戦時中にも
関わらず、農業技術書を中心に刊行が盛んであった。商業出版は一般にその時代のニ
ーズに基づき、刊行されるものであり、戦前の北海道はその必要から農業関係書と教
育関係書が刊行された。
小説を中心とした文芸書・郷土史関係書は本格的な商業出版に至らず、郷土史関係
書は市町村から非売品として刊行された。また、本州の自然と異にする北海道の動物
・植物関係書も、商業出版に至らなかった。当時の北海道の主要産業の石炭関係の技
術書は商工省(現在の通産省)鉱山監督局や北海道炭坑汽船(株)等によって刊行さ
れ、商業出版とはならなかった。
昭和期に入って本格的な商業出版の揺籃期となったが、戦時体制の強化によって出
版社の統廃合によって商業出版は挫折した形となった。太平洋戦争がなければ、北海
道の出版界は、もっと多彩な出版物を刊行したであろう。
農業関係書の淳文書院代表・湯浅英五郎、教養書を含む教育関係書の北海出版社代
表・石田磊三並びに北海教育評論社代表・石附忠平の三者とも札幌師範学校出身であ
ったことはこの時期の特色と云えよう。
戦前の北海道で刊行の市販雑誌類については、その多くの現物が公的機関に多く所
蔵されておらず、論評することを差し控えたい。
◇北方・北方圏・北方文化について◇
第8回で触れたように、北方・北方圏や北方文化の語句は明治時代から使用されて
きたが、昭和時代に頻繁に使用されるようになった。北方・北方圏・北方文化の語句
は日本列島の北辺という地理的概念から脱脚して、当時の戦時体制によるシベリア・
アラスカ半島及びアリューシャン列島を含むユーラシア北方圏の地域研究の必要から、
広い地理的概念となった。
出版界においても、昭和14年設立の小樽新聞社傘下の北方農業社(昭和16年に北方
文化社に改名)、昭和16年設立に札幌市の古書店・尚古堂経営の代田茂経営の北方出
版社に北方の語句が使用された。この北方出版社から3冊の<北方叢書>の書籍が刊
行されている。
北海道大学では第8回で記述したとおり昭和12年に学内研究機関として「北方文化
研究室」を設置、紀要『北方文化研究報告』を刊行した。また全国組織の綜合北方文
化研究会から学術雑誌『北方研究』が刊行された。北方・北方圏や北方文化という語
句の使用と、昭和時代特に戦前の時代背景とは無縁ではないと思う。
◇講談社北海道出張所の設立と戦後の出版ブーム◇
戦時体制の強化による出版事業令に基づき、昭和19年に商業出版の北方文化出版社
・北海出版社・淳文書院及び北海教育評論社の4社の統廃合により北方出版社となっ
た。
昭和19年以降、米軍機による東京空襲により東京の出版機能が停止状態となった、
大手出版社や新聞社による出版物の刊行は、全国各地に移転・疎開を検討した。大日
本雄弁会講談社は、昭和20年5月に札幌市南1条西3丁目の富貴堂書店に出張所を設
置、終戦間近の7月に菊池寛の小説『愛憎の書』上巻を刊行した。この小説は軍隊向
の文庫判のもので、終戦後の20年11月に下巻を刊行した。
出版社の統制団体の日本出版会の北海道支部が北方出版社や講談社等が参画して、
20年7月に設立された。
戦後占領期の昭和21年から約4年間、札幌市を中心とする北海道は印刷用紙の生産
地のため、全国的出版地となった。この北方出版社は戦後占領期北海道の出版ブーム
の中で、最大の出版物を刊行するようになる。
本稿は次回から戦後篇となる。
☆出村文理(でむら・ふみただ)氏は北海道書誌研究者。敗戦後、札幌や小樽に移っ
てきた出版社の活動や作家たちの動向をまとめた『思いがけないルネサンス』(市立
小樽文学館)など戦後占領期北海道出版ブームの書籍・出版に関する著作がある。
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